かつては買収で規模拡大を進めてきたハリウッドのエンタメ企業が、事業の中核以外の資産を切り捨て、経営のスリム化を図っています。メディア業界では来年、新たな統合の波がくると予想されており、大型の買収を模索する上場企業はウォールストリートや潜在的パートナーに対し、事業が戦略的に正しい方向に進んでいることを納得してもらう必要があると、Axiosが解説しています。
Walt Disneyは、傘下のABCネットワークとO&Oのローカル局の売却について、ローカル局グループのNexstar Media Groupと交渉を行ったと報じられました。交渉は初期的なもので、具体的な査定額は決まっていないということです。
また、メディア王として知られるByron Allenも、ABCとその系列局、その他リニアネットワークを含む資産パッケージに対して$10B(1兆3,000億円)の買収オファーを出したと報じられ、同社はこれを認めています。
Disneyは声明を出し、リニア事業について戦略的選択肢を検討しているとした上で「ABCやその他資産の売却については、まだ何も決まっていない」と状況を説明しました。既報の通りCEOのBob Igerは7月、パーク、ストリーミング、映画事業を優先させるためリニア事業の売却を検討していると発言しています。
Nexstarはコメントを出していませんが、同社の元社長で現在はCEOのアドバイザーを務めるTom Carterは業界会議に登壇し、買収の可能性を示唆。同時に、DisneyのスポーツネットワークであるESPNがABCと多くの放送を共有していることに触れ、ABC売却後はそれがどう変わるのかなどについて、Disneyは方針を示す必要があると述べました。
116市場で所有・提携する200のテレビ局を持つNexstarは「米国最大のテレビ局オーナー」(Carter)です。規制当局は合併取引全般に難色を示す傾向があり、今年初めにはヘッジファンドStandard GeneralがFCCによる承認判断の遅れを理由に、ローカルテレビ局所有・運営のTegna買収計画を白紙化しています。Disneyが資産売却で合意した場合も、取引が実現するかどうかは別問題です。
Paramountもストリーミング事業への注力を理由に不動産など一部資産の売却を進めており、最近では8月、出版事業のSimon & SchusterをKKRに$1.62B(2,106億円)で売却しました。BET、VH1など複数ケーブル局を傘下に持つBET Groupの過半数株式の売却も計画していましたが、「バランスシートの有意なレバレッジ解消につながらない」と判断してキャンセルしたと報じられています。
Warner Bros. Discoveryは、コンテンツの評価損の計上、楽曲カタログの一部売却、その他コスト削減策により、2022年の合併時に背負った負債の返済を急いでいます。合併時に利用した税制措置が来年期限切れとなることから、その後は大型の取引を模索する可能性もありそうです。
NBCUはWBDやその他大手エンタメ企業にとって格好の合併先と考えられています。同社はストリーミングに重点を置くため小規模のケーブルネットワークをたたんできており、スポーツネットワークのNBCSNをはじめ、LX、Olympic Channel、Esquire Networkなど多くのチャンネルを閉鎖しています。
メディア大手の株価は昨年の低迷から年初にいったん持ち直したものの、その後は再び苦戦しています。赤字続きのストリーミング事業に投資家が不満を募らせた結果です。しかし、Disney、WBD、NBCU、Paramountともに少なくとも2024年か2025年まではストリーミング事業の赤字脱却を見込んでいません。黒字化を急ぐ各社は、この1年で料金値上げに踏み切りました。
将来的に大きくなるために、メディア大手は今、資産ポートフォリオにナタを振る必要があると、Axiosは分析しています。