NBCUが米国で独占中継した夏季五輪パリ大会の視聴者数は、前回の東京大会から82%増で、Peacockでの配信視聴も記録的なものとなりました。 ラ[…]
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NBCUが米国で独占中継した夏季五輪パリ大会の視聴者数は、前回の東京大会から82%増で、Peacockでの配信視聴も記録的なものとなりました。
ライブ中継(米東部時間で午後2〜5時)と夜のプライムタイム録画放送(同夜8〜11時)を合わせた総視聴者数(Total Audience Delivery: TAD、地上波、ケーブル、配信を合わせた視聴者数)の平均は3060万人となり、同じ基準で計測された東京大会の2080万人を大きく上回りました。Peacockでの延べ配信時間も、東京大会と北京大会の過去2回分の合計を上回るという記録的なものとなりました。NBCUとしては次回の自国開催に向け弾みをつける結果となりました。
今回、NBCはZ世代へのアプローチとして、ソーシャルメディアのインフルエンサーを起用したことも注目を集めています。NBCは27人のスター・インフルエンサーに記者証を与え、米国から現地パリに派遣。ネットワークがTikTokやInstagramのインフルエンサーに記者証を与えるなど前代未聞です。
ソーシャルメディアの利用について、IOCが規制を緩めたことも背景にあるようです。IOCはこれまで、インフルエンサーやアスリートらによるソーシャルメディアでの動画投稿を厳しく規制していました。ところが今回のオリンピックからその規制が大幅に緩和され、インフルエンサーはもとより、アスリートらも自由に大会中の様子をソーシャルメディアで投稿できるようになりました。
NBCはこのインフルエンサーの人選に1年をかけたと言います。27人の中には、ジムナスト/インフルエンサーのOlivia Dunne、スポーツメディア企業Overtime所属の5人のクリエーターなど、スポーツ関連分野からの人選もありますが、オリンピック中継を見る幅広い層の視聴者にアピールするように、ライフスタイルや旅行、グルメ、ファッションなど、スポーツ以外のさまざまなジャンルから選び抜いたそうです。彼らは「Paris Creator Collective」と称され、現地でアスリートにインタビューしたり、パリのフードや文化、観光スポットを紹介したりするなど、それぞれの専門分野で、それぞれの視点から、パリ五輪をフォローワーに向けて現地レポートしました。
この初のインフルエンサー戦略は、NBCが過去2回の五輪中継での失敗の同じ轍を踏まない戦略でした。2021年の東京大会はコロナ禍で延期されたという不運もありますが、米東海岸との13時間の時差もあり、プライムタイムの視聴者数は平均1560万人と、リオ大会の2700万人から大きく減少。翌2022年の北京冬季大会も、長引くコロナ禍と時差、そして対中国の政治的軋轢から米国内での視聴は激減。過去20年のNBCの五輪中継で最低を記録しました。オリンピック独占中継権を$7.65B(1兆710億円)の巨額投資で2032年まで延長したNBCとしては、過去2回の低迷を経て、パリ大会では大きな成功を納めておきたいという強い思いがありました。
インフルエンサーの旅費や滞在費などは全てNBC持ち。あるインフルエンサーがBloomberg Mediaに語ったところによると、記者証によって米国内での予選からパリまで、あらゆる主要イベントに無料で入場できる代わりに、オリンピック予選中に動画を5本、予選終了からパリでの本大会までにさらに5本、そして現地パリでの開催中に15本の動画をソーシャルメディアで投稿するよう指示されたということです。これについては、NBCは明確なコメントを避けています。
招待されたうちの一人で、ライフスタイル・インフルエンサーのJasmine Nguyenは、アスリートのインタビューに加えて、パリのファッションをテーマにした動画を投稿したほか、TikTokの78万人以上いるフォロワー向けにオリンピックグッズの無料プレゼントを実施。リアルタイムでフォロワーから、「パリ五輪の何が知りたいか、何を見たいか」の希望や意見を募るなど、ソーシャルメディアでしかできないDTCアプローチを展開したということです。
さらに、TikTokで1420万人のフォロワーを持つファイナンシャル・インフルエンサー、通称Daniel Macも、オリンピックをお金という側面でレポート。代表予選の会場で体操選手に「オリンピック出場経費がいくらで、メダルを獲得した場合どのくらいのキャッシュバリューがあるか」などとインタビュー。パリ五輪が始まる前の投稿動画ですが、4万人以上が視聴するなど、五輪への注目度アップに貢献したようです。
ビッグイベントでのインフルエンサーの活用は広がっており、8月19日から4日間シカゴで開催された民主党全国大会でも、初めて党側がインフルエンサーを会場に招待しています。その規模は200人以上!これも目的は同じで、より多くの若者層に党大会を見てもらい、ひいてはより多くの若者に民主党候補に投票してもらうためです。民主党全国大会ではスマホ視聴用にバーティカル動画(縦長の動画)も撮影され、TikTokやインスタグラム、YouTubeでライブ配信されました。
インフルエンサー戦略は、これからのマーケティングには必須と言えそうです。
(参考リンク)
https://adage.com/article/special-report-olympics/paris-olympics-tv-viewership-306-million-viewers/2574876
https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-07-31/nbc-bets-on-social-media-influencers-to-draw-gen-z-to-the-games?srnd=undefined&sref=dZ65CIng
https://www.nbcnews.com/tech/internet/democrats-grant-special-convention-access-200-content-creators-rcna167272?
https://www.axios.com/2024/08/13/democratic-convention-streaming-tiktok-instagram?