Mediaocean、競合のInnovidを買収

買収のニュースを二つ。   バイサイド向けの各種ソリューションを提供するMediaoceanが広告運用管理やメジャメントソリューションを提供するInn[…]

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買収のニュースを二つ。

 

バイサイド向けの各種ソリューションを提供するMediaoceanが広告運用管理やメジャメントソリューションを提供するInnovidを買収しました。

 

主な狙いは、Mediaocean傘下の広告主向けのアドサーバーおよびダイナミッククリエイティブソリューションを提供するFlashtalkingに、特にCTV領域で強みを持つInnovidのソリューションを統合するところにあります。この分野での大手2社の統合により、統合後には高いマーケットシェアを握ることになります。

 

買収は2025年初めには完了する予定で、それまでは両社のサービスはこれまで通り提供される予定です。

 

もう一つ、DSP事業を展開するViantはCTV領域の強化を目的に、CTVデータプラットフォームであるIRIS.TVを買収しました。買収金額などの詳細は発表になっていません。

 

CTV事業の拡大に注力するViantは、IRIS.TVが持つ独自のビデオレベルデータを活用することで、他のDSPが提供するジャンル、ブランドセーフティーなどの情報よりもより詳細なコンテクスチャルデータを用いたキャンペーンを広告主に提供することが可能になります。CTV広告ではアプリレベル、ジャンルレベルを超えたコンテクスチャルソリューションを求める声も多く、そうした需要を取り込む狙いがあります。

 

IRIS.TVのチーム(350名)はそのままViantに統合されるということです。

 

(参考リンク)

https://www.mediaocean.com/press-releases/2024/11/21/mediaocean-to-acquire-innovid

https://www.viantinc.com/company/news/press-releases/viant-technology-announces-acquisition-of-iris-tv/

Creator Upfronts、LAで初開催

こちらでも企画段階でお伝えした業界初のクリエイターアップフロント「Forbes Creator Upfronts」が10月28、29日にロサンゼルスで開催されま[…]

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こちらでも企画段階でお伝えした業界初のクリエイターアップフロント「Forbes Creator Upfronts」が10月28、29日にロサンゼルスで開催されました。テレビ業界のアップフロントを真似て、Forbesが大手小売チェーンWalmartの子会社Walmart Creatorと共同で開催したものです。クリエイター、タレントエージェント、ブランド、マーケターら400人以上が集まり、24人のクリエイターがプレゼンテーションを行い、将来のブランドパートナーにPRしました。

 

 

24人のプレゼンターの中には、「インフルエンサー」という言葉が生まれる前から、独自のオンラインコミュニティーを構築してきたベテランもいれば、キャリア1年未満という新人インフルエンサーもいました。ベテランの中には、コメディー・インフルエンサーのJesus Garcia (別名MrChuy)、マジシャンYouTuberのJustin Flomなどがおり、新人インフルエンサーには、TikTokのコメディアンGrace Amaku、トラベル・クリエーターのMarcela Marañonなどがいました。

 

各プレゼンターはそれぞれが、映画のトレーラー風の2分間動画を制作し、自身のソーシャルメディアでのリール・コンテンツや過去の提携ブランドの紹介、どのプラットフォームで展開しているか(ソーシャル・プラットフォーム、ポッドキャスト、ニューズレターなど)、平均的なエンゲージメント率、フォロワー数などを発表。インフルエンサーとしてのキャリアに加え、独自で立ち上げたブランドやその他のキャリアがあれば、それについてもPRしています。この2分間ビデオでのプレゼンが終了すると、5分間のQ&Aセッションで、会場からの質問に答えるという形式でした。

 

このCreator Upfrontsの開催の背景には、多くのブランドがZ世代にリーチする手段として、インフルエンサー投資を増やしていることがあります。Z世代の88%が最低でも一人のクリエーターをフォローしており、22%が50以上のインフルエンサーをフォローしているという調査結果(Morning Consult)もあり、2027年までにクリエーターエコノミーは$480B(67兆2000億円)市場になるとの予測で、2023年の$250B(35兆円)市場から約2倍となる見込みです(Goldman Sachs)。

 

Forbesと共同主催のWalmart Creatorは、2023年クリエイタープログラムのベータ版をローンチしていますが、その後毎月1000人以上のクリエイターが加わり、今年6月の時点で数万人に達したということです。Forbesはこのアップフロントで、クリエイターには更なる学びの場を、ブランドにはクリエイター発掘の場を提供したいと考えたそうで、今回の参加者400人以上は、クリエイターとそのエージェンシーが半分、ブランド&マーケター半分という構成になっています。参加ブランドは、AT&T、United Airlines、Hulu、American Eagle、Lululemonなど。インフルエンサーサイドからはReach AgencyのCEO・Gabe Gordon、Whalar Groupの共同創設者/CEO・Neil Wallerなどが参加しました。

 

1回目の開催としては、賛否両論あったようですが、主な批判としては登壇するクリエイターがアップフロントの意味をあまり理解できていなかったというものがあったそうです。それでもクリエイターサイドとしては同じ分野活躍しているクリエイターのプレゼンを見たり、ネットワーキングできたことはプラスだったという声はあったそうです。新しい試みですが、まずは、クリエイター・ブランドの双方にとって、学び&ネットワーキングの場にはなったようです。今後の進化に期待というところでしょうか。

 

(参考リンク)

https://adage.com/article/digital-marketing-ad-tech-news/creator-upfronts-walmart-and-forbes-influencers-pitch-marketers/2590061

https://www.forbes.com/connect/event/2024-forbes-creator-upfronts/

Disney、Q4決算

The Walt Disney Companyの2024年度Q4(9月28日締め)決算は、ストリーミング事業が前年同期の営業赤字から黒字転換してリニア事業の減益[…]

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The Walt Disney Companyの2024年度Q4(9月28日締め)決算は、ストリーミング事業が前年同期の営業赤字から黒字転換してリニア事業の減益を一部相殺し、両事業を含むエンタメ部門の営業利益増に寄与しました。

 

Disney CEO Bob Iger presents at the company’s 2024 upfront event.Disney/Michael Le Brecht

 

Q4の全社売上は、前年同期比6%増の$22.6B(3兆1,640万円)、税引前利益は同6%減の$0.9B(1,260億円)。2024年度通期では、売上が前年比3%増の$91.4B(12兆7,960億円)、税引前利益は同59%増の$7.6B(1兆640万円)でした。ストリーミングとリニア、映画を含むエンタメ部門、インドを除くESPNを含むスポーツ部門、テーマパークを含むエクスペリエンス部門の全部門営業利益は、Q4に前年同期比23%増、通期で前年比21%増と大幅増収となりました。

 

エンタメ部門のQ4決算は、売上が前年同期比14%増の$10.83B(1兆5,162万円)、営業利益は前年同期の$236M(330億4,000万円)から大幅増の$1.07B(1,498億円)でした。Disney+などのDTC事業の売上が15%増、コンテンツ販売・ライセンシングその他事業が39%増と増収に寄与する一方、リニア事業は6%減。DTC事業は営業損益が前年同期の$420M(588億円)の赤字から$253M(354億2,000万円)の黒字に転換。対照的にリニア事業の営業利益は前年同期から38%減の$498M(697億2,000万円)でした。

 

ストリーミング事業の業績改善は、料金値上げと加入者数の増加による加入者収入(サブスク売上)の増加や広告売上の増加を、プログラミング・制作コストの増加が一部相殺したものです。インドを除くDisney+の会員数は、Q3末時点から4%増の1億2,270万人、Huluは2%増の5,200万人でした。

 

国内(米国・カナダ)のDisney+顧客の有料加入者あたり平均月間売上(Average Monthly Revenue Per Paid Subscriber)は、Q3末時点の$7.74(1,084円)から$7.70(1,078円)にわずかに減少しましたが、これはDisneyがより安価な広告付きプランやホールセールサービスの顧客構成比を高めたためです。同社はストリーミング事業の収益性を高める手段として、広告販売と広告入りプランの加入者獲得に重点を置いており、決算発表後の会見でCEOのBob Igerは、現在は新規加入者の約60%が広告入りティアを選択していると述べています。同氏によると、国内の全加入者の約37%と、グローバルでは30%が広告ティアの加入者だということです。

 

コンテンツ販売・ライセンシングその他事業の営業損益は、前年同期の$149M(208億6,000万円)の赤字から$316M(442億4,000万円)の黒字に回復しました。業績改善は主に映画の興行収入が好調だったためで、Disney Pixarの『Inside Out 2』はこの夏、『Frozen II』を抜きアニメーション映画史上最高を記録し、『Deadpool & Wolverine』はWBDの『Joker』を超え、R指定映画として歴代最高となりました。

 

インドを除くESPNを含むスポーツ部門のQ4売上は、前年同期比1%増の$3.86B(5,404億円)。加入者収入や広告売上の増加をプログラミングコストの増加などが上回り、営業利益は6%減の$896M(1,254億4,000万円)でした。

 

エクスペリエンス部門のQ4売上は前年同期比1%増の$8,240M(1兆1,536億円)、営業利益は6%減の$1,659M(2,322億6,000万円)。コロナ禍後に来場者が急増した反動で、特に米国でテーマパーク事業がスローダウンしました。

 

(参考リンク)

https://thewaltdisneycompany.com/the-walt-disney-company-reports-fourth-quarter-and-full-year-earnings-for-fiscal-2024/

https://www.cnbc.com/2024/11/14/disney-dis-earnings-q4-2024.html

https://www.adweek.com/convergent-tv/disney-ceo-mistake-ad-supported-streaming-subscribers/

 

Paramount vs Nielsen(続報)

ParamountとNielsenの契約交渉が決裂してから1ヶ月以上が経過しますが、引き続き両社は睨み合い状態が続いています。Ad Ageがこの状況で板挟みに合[…]

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ParamountとNielsenの契約交渉が決裂してから1ヶ月以上が経過しますが、引き続き両社は睨み合い状態が続いています。Ad Ageがこの状況で板挟みに合っているメディアバイヤーたちの声を取り上げています。

 

まず、Nielsenですが、バイサイドからの不満に対して「Nielsenは大幅な価格の引き上げを求めているわけではない」とParamountの主張を一蹴。ParamountはNielsenの料金自体が著しく高くビジネスを圧迫しているという不満を公言しています。

 

Nielsenは、Paramountが推奨するVideoAmpがMRCの認定を取っていないことを批判し、ParamountがMRCに認定されたデータを軽視しているのではないかという懸念も示しました。Nielsenはさらに「VideoAmpは厳正な品質と基準を持っておらず、地上波放送やライブスポーツにおいて信頼性がない。」とも批判しています。一方のVideAmpは、すでに2年間の準備期間を経てきたことやJIC認定を盾にこの批判に対抗しています。

 

気になるバイヤーの声ですが、NielsenとVideoAmpのデータに予想以上の差異があることに懸念を示すバイヤーやNielsenとVideoAmpの両方を管理しなければならない広告代理店の負担の大きさを指摘しています。こうした懸念もあり、二つのカレンシーに対応したくないという理由で、スキャッター市場でParaumontへの広告投資を控えるバイヤーも出ているとされます。

 

また、他の懸念としては、VideoAmpがJIC認定において世帯計測は認められているが、個人属性については改善の必要を申し渡されている点、Nielsenに比較してベンチマークが不足している点などが挙げられています。代理店側では、VideoAmpのデータとNielsenのデータをParamountとの取引に関して比較はできますが、広告主への取引の測定報告に関しては、全てVideoAmpで行われているようです。

 

しかし、当のParamountはこうした状況に焦りを見せておらず、一つはNielsenを契約しないことで大きなコスト削減を実現していることと、VideoAmpの数字は一般的にNielsenよりも高く、特に若年層に対して高めの数値が出やすい傾向にあるからです。あるバイヤーは、これからの争点は、NFLなどの高視聴率番組に関して、アップフロント取引でVideoAmpが使用されるのかどうかだろうと今後を予測しています。

Paramountは買収も控えたコスト減を盾にかなり開き直っていますから、NFLや人気の「Yellowstone」などを武器に風穴を開けていきたいところでしょう。スポーツの高需要を考えるとVideoAmpでもスポーツを買いたいという人は出てきそうな予感もしますね。今後の展開に注目です。

 

(参考リンク)

https://adage.com/article/media/paramount-nielsen-standoff-karthik-rao-media-buyers-react/2591586

DirecTVとDishの合併、先行き不透明に

9月末に発表された2大衛星放送のDirecTVとDish Networkの合併が暗礁に乗り上げています。   当初の合併計画には2つの枠組みがありまし[…]

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9月末に発表された2大衛星放送のDirecTVとDish Networkの合併が暗礁に乗り上げています。

 

当初の合併計画には2つの枠組みがありました。一つ目は、DirecTVが、EchoStarの動画事業(衛星放送のDishと配信サービスのSling TV)を名目$1で買収し、同時にDirecTVがDishの負債$9.75B(1兆3650億円)を引き受けるという債務交換です。もう一つは、DirecTVの親会社AT&Tが、DirecTVの70%の株式、$7.6B(1兆640億円)を投資ファンドTPGに売却するというものです。TPGは2021年に30%株式を取得しているので、これで100%株主となり、AT&Tはエンターテインメント事業から完全撤退するというシナリオです。

 

この合併計画は、規制当局の認可を待って、2025年末までに完了する予定でした。しかし、債務交換ではDishの債権者の棒引きを前提としていましたが、DirecTVの債務交換の金額が当初の$9.75B(1兆3650億円)から$8B(1兆1200億円)へと20%減額された額が提示されたため、Dishの債権者が「それだけのロスを被ることはできない」とこの提案を拒否。その後、減額分を10%にするという改善案が提出されましたが、Dishの債権者はこちらも拒否しました。

 

そのためDirecTVが11月12日、2社間の合意が叶わなかったとして、合併中止を発表しています。最初にこのニュースを伝えたBloombergによると、11月22日までに打開策が見つからない場合、正式に合併中止になるとのことです。当初の合意の下、合併中止による違約金は発生しないようです。ただし、この合併の実現いかんにかかわらず、AT&TによるDirecTV株の売却は行われるとされています。

 

この合併が実現すれば、全米最大規模の有料テレビ事業者となるはずでした。DirecTV、Dish、Sling TVを合わせると、合計契約者数は2000万人。ケーブル大手のComcastの1320万人を裕に超える規模になります。

 

2社の合併は2002年にも計画されましたが、当時のブッシュ政権下で認可が降りず実現しませんでした。しかし、当時とは有料テレビ業界の事情も大きく異なるため、政府認可は降りるだろうと言われています。今後の展開は、債権者との交渉次第となりそうです。

 

(参考リンク)

https://www.axios.com/pro/media-deals/2024/11/13/directvs-dish-deal-bondholders

https://www.cnbc.com/2024/11/12/directv-says-dish-purchase-is-off-.html

https://www.tvtechnology.com/news/directv-drops-echostar-merger-bid?

Spotify、Q3決算

SpotifyのQ3決算は、売上総利益率が31.1%と過去最高を記録し、2024年通年で初めて30%を超える見通しとなりました。昨年から取り組んできた利益率重視[…]

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SpotifyのQ3決算は、売上総利益率が31.1%と過去最高を記録し、2024年通年で初めて30%を超える見通しとなりました。昨年から取り組んできた利益率重視の戦略が奏功したもので、過去2年間の四半期平均は25%でした。

 

Spotify CEO Daniel Ek Courtesy of Spotify

 

Q3の売上は19%増の€4.0B(6,556億円)、営業利益は前年同期の€32M(52億4,500万円)から過去最高の€454M(744億700万円)に増加し、2024年は通年で初めて営業黒字を計上する見込みです。増収は主に有料会員の売上が€3.5B(5,740億円)と21%増だったことによるもので、会員数の増加とユーザーあたり平均売上(ARPU)の増加が原動力となりました。一方、広告入りアカウントの売上は6%増の€472M(773億5,700万円)で、同社は音楽・ポッドキャスト広告料金の軟調を指摘しています。

 

WSJによると、楽曲配信サービスは売上$1(140円)につき¢70(98円)以上をレコードレーベルに支払っており、売上総利益率の改善は決算に大きく反映されます。Spotifyは2022年末に1万人超だった従業員数をこれまでに29%削減するなど、厳しいコスト管理を進めると同時に会員料収入と無料会員向けの広告売上の増加に注力してきました。

 

Q3のマンスリーアクティブユーザー数(MAU)は前年同期比11%増の6億4,000万人、有料会員数は同12%増の2億5,200万人となり、いずれも当初予測を100万人上回りました。同社は昨年夏に続き今年7月にも会員料金を値上げしましたが、特に大きなユーザー離れは起きておらず、ユーザーベース自体は過去18カ月で16%以上増えたことになります。

 

また、Spotifyは新しい取り組みとして、一定の視聴基準を満たした人気ポッドキャスト動画のクリエイターに報酬を払って動画制作を促し、有料加入者が「The Joe Rogan Experience」「Anything Goes with Emma Chamberlain」などの番組を広告なしで視聴できるようにする計画です。Spotifyでは、現在も番組ホストがポッドキャスト動画をアップロードすることは認めていますが、報酬は払っていませんでした。

 

Spotifyは人気ポッドキャストのいくつかを配信していますが、近年はお気に入りの番組をYouTubeで視聴または聴取するリスナーが増えています。YouTubeはいまや若者の娯楽の中心であり、動画の広告売上を投稿者と分配することで、より多くの動画を投稿してもらおうとしています。Spotifyによるクリエイターへの報酬支払いの背景には、ポッドキャスト動画市場におけるYouTubeの牙城を切り崩す狙いがあるとみられています。

 

(参考リンク)

https://s29.q4cdn.com/175625835/files/doc_financials/2024/q3/Q3-2024-Shareholder-Deck-FINAL.pdf

https://www.wsj.com/business/media/spotify-delivers-a-strong-encore-01a2c5ab?mod=earnings_more_article_pos2

https://www.hollywoodreporter.com/business/business-news/spotify-earnings-profitability-subscribers-1236060081/

https://www.wsj.com/business/media/spotify-takes-aim-at-youtube-in-battle-for-podcasts-ad6db6a7?mod=business_feat5_media_pos1

ケーブルニュース局、選挙後に明暗

米総選挙の結果が出て以降、リベラル派ケーブルニュース局として知られるMSNBCの視聴者が激減しているとNew York Timesが報じています。Nielsen[…]

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米総選挙の結果が出て以降、リベラル派ケーブルニュース局として知られるMSNBCの視聴者が激減しているとNew York Timesが報じています。Nielsenによると、選挙直前の10月の平均視聴者数と比べると、選挙後は24時間平均で39%減、プライムタイムで53%減となっています。逆に選挙後視聴者数を増やしているのは、MSNBCのライバルで保守派のFOXニュースです。10月の平均視聴者数と比べると、24時間平均が38%増、プライムタイムが21%増と対照的な結果となっています。

 

MSNBCといえば、民主主義死守、移民擁護、中絶の権利擁護などリベラルな視点と、徹底した反トランプ、MAGA批判報道で知られています。ハリス副大統領の出馬が決定した7月以来視聴者数を伸ばしていました。しかし、ハリス敗戦後の視聴者数の激減は、看板番組「The Rachel Maddow Show」でも顕著でした。この番組は毎週月曜プライムタイムの放送で、同局で常に最高視聴者数を誇るものです。その人気番組の選挙明け11月11日(月)放送分の視聴者数は、10月平均から130万人も少なかったとのこと。しかも、54歳以下の主要年齢層の視聴者数が、2022年4月以降最低を記録したそうです。

 

一方、FOXニュースといえばトランプ支持の保守派で、MSNBCと対極に位置するケーブルニュース局。トランプ勝利で勢いをつけたことももちろんありますが、トランプ陣営の閣僚候補に同局関係者が二人も指名されたことが、視聴者数増に反映されていることも否めません。元警察官・移民管理官の同局コメンテーターTom Homanが国境警備責任者に、現役の米陸軍州兵であり週末番組「Fox & Friends Weekend」のホストPete Hegsethが国防省長官に指名されています。

 

ただ、NYTは、政治的対極にあるこの2局の視聴者数が、選挙後に激増・激減するのは何も今回だけではないことも指摘しています。MSNBCの視聴者数は、ヒラリー・クリントン候補が敗北した2016年の選挙直後も激減していますし、FOXニュースのそれも2020年のトランプ敗北直後に激減しています。両局とも、こうした選挙後の一時的な視聴者数減の後は、通常レベルまで巻き返しています。

 

選挙後の視聴者数の激増・激減現象については、視聴者心理が多分に影響しているそうで、今回は、ハリス支持の視聴者らがトランプ勝利で心理的に打ちのめされたことが影響しました。地上波のニュース番組と異なり、ケーブルニュース局はほぼ1日中、選挙報道またはその関連番組を放送しています。支持していた候補者の敗北の直後、そうしたテレビ番組を見る気になれないという心理は、当然といえば当然で、一種のPTSDとも言えそうです。

 

3大ケーブル局の中で近年最も苦戦しているCNNも、今回の選挙後に視聴者数が激減しています。Nielsenによると開票日翌日の11月6日以降の平均視聴者数は、10月平均から24時間平均で22%減、プライムタイム平均で43%減でした。

 

MSNBCは今後の数週間、数ヶ月間は低迷を予想しているようですが、第一期トランプ政権の2017年以降は、良くも悪くも「トランプ効果」で、トランプ批判のMSNBC視聴者数も伸びました。しかし、同様のトランプ効果が今回も起こるかは疑問だとNYTは分析しています。当時よりもケーブルニュースの視聴者の絶対数が減っていること、視聴者が当時と同じようにMSNBCの「反トランプ報道」を欲しているかは、蓋を開けてみないとわからないことを理由として挙げています。

 

(参考リンク)

https://www.nytimes.com/2024/11/13/business/media/msnbc-fox-news-ratings-election.html?

”アーンドメディア”を活用したトランプの選挙戦略

今回の大統領選挙で、トランプ前大統領を勝利に導いた広告戦略について、Adweek誌が分析しています。   選挙キャンペーン期間を通して、民主党がハリス[…]

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今回の大統領選挙で、トランプ前大統領を勝利に導いた広告戦略について、Adweek誌が分析しています。

 

選挙キャンペーン期間を通して、民主党がハリス副大統領のテレビ選挙広告に投下した総額は、共和党のテレビ広告支出を$460M(644億円)以上上回るとされます。以下のグラフは、GoogleやFacebookなどのデジタル広告支出の比較ですが、こちらも民主党が共和党を大きく上回っていることが分かります。

 

 

こうした大規模な広告支出にも関わらず、ハリス副大統領が敗北した事実は、選挙広告で何が有効かが大きく変わってきているとAdweekは指摘しています。トランプ候補は明らかに、テレビやデジタルの有料広告よりもいわゆる”オルタナティブメディア”での情報発信に重きを置いていました。ポッドキャストやTwitch、その他のインフルエンサー・プラットフォームなどです。

 

データ分析会社YouGovがこの秋行った選挙広告調査によると、回答者の半数以上が「テレビの選挙広告は、誰に投票するかを決めるのに全く影響力を持たない」と答えたそうです。加えて、多くの有権者は「選挙キャンペーン期間中、テレビは選挙広告で溢れかえっている」と嫌悪感を抱いていることも示されました。

 

クリエーティブエージェンシーPromptは「民主党が”ペイドメディア(paid media=テレビ、SNSの有料広告)”に投資したのに対し、共和党は”アーンドメディア(earned media”)に投資した」という分析をしています。アーンドメディアとは、ブランド(選挙の場合は候補者)についての情報を、ブランド(候補者)と関係のない第三者が発信することを指します。インフルエンサー・プラットフォームなどのSNSや口コミサイト、マスメディアであればニュース報道・記事などを指します。

 

トランプ候補の場合、10月Joe Roganのポッドキャストに出演し、二人で3時間にわたる台本なしのやり取りを配信したことが、勝敗を決したイベントだったと言われています。Newsweekによると、このエピソードは24時間で2600万人が視聴したそうです(ちなみにCNNによると、トランプ候補はこのエピソードで32もの誤情報を発言・発信しているとしています)。同候補はまた、インスタグラムのクリエーターともチームアップし、ホストとアドリブ満載でワイワイ楽しく語らっている動画を投稿し、150万件の「いいね」を獲得しました。

 

トランプ候補はさらに、テクノロジー好きな若者層にリーチするため、ゲームや音楽配信のTwitch(Amazonの子会社)も利用し、選挙ラリーの様子や演説の動画を配信。トラディショナルメディアではリーチできない新しい視聴者にリーチすることに成功したとされます。

 

ハリス陣営もこれらオルタナティブメディアでのアプローチは行っています。Alex Cooperのポッドキャスト「Call Her Daddy」に出演しましたし、NBCの「Saturday Night Live」に選挙直前に飛び入り出演するなどして、広告以外の方法でも有権者にアプローチしました。それでも、良くも悪くもトランプ独特の人々を煽るような言葉遣いや態度が、アーンドメディアの特性にマッチし、その効果を最大限獲得できたということのようです(ある意味炎上商法とも言えるかと思います)。

 

2016年から4年間の大統領第一期を見てもわかるように、トランプ候補はトラディショナルメディを敵対視しています。それを考慮すると、今回のオルタナティブメディアへのシフトはごく当然のことと言えるでしょう。「テレビは政治広告が多すぎる」と苦情を呈している有権者に向けて、オルタナティブメディアでアプローチすることで、トランプ自身が「有権者同様にトラディショナルメディアに嫌気がさしている」という一種の同志意識を植え付けることに成功したという分析もあります。

 

勝てば官軍なので、様々な考察が可能ですが、有権者へのアプローチも今後は変わってくるかもしれません。前回の当選時もFacebookのデータ活用という点が評価されましたが、先進のメディア戦略に長けたマーケティング担当がついているのでしょうか… 日本でも兵庫県知事選挙で同様の議論が起きているようですが、ソーシャルメディアは拡張機のような効果があるので、フェイクニュースを無数にばら撒く陣営には大きな追い風になります。一方でファクトチェックに依拠しているメディア機関や団体は、その火消しに追われてしまうという傾向があります。こうしたオルタナティブメディアが選挙結果に大きく影響してしまうことに関して、改めて立ち止まって考える必要があるかもしれません。

 

(参考リンク)

https://www.adweek.com/media/trumps-media-persuasion/

https://www.adweek.com/convergent-tv/infographic-what-people-really-think-about-political-ads/

トランプ政権の規制緩和にメディア業界も期待

2025年からのトランプ政権下では、企業合併に対する政府規制が今よりもかなり緩和されると見られています。メディア業界でも、生き残りをかけた大型M&Aが今[…]

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2025年からのトランプ政権下では、企業合併に対する政府規制が今よりもかなり緩和されると見られています。メディア業界でも、生き残りをかけた大型M&Aが今後増えることが予想されます。

 

SkydanceによるParamount Globalの吸収合併は、規制当局の認可待ちですが、合併が完了すれば、SkydanceのCEO・David Ellisonが経営の全権を握ることになっています。このDavid Ellisonの父・Larry Ellisonは、トランプを支持していることで知られています。

 

Warner Bros. Discovery(WBD)も以前、全リニア資産を売却することを模索していましたが、結局断念し、小規模資産を売却するにとどまりました。しかし、トランプ政権下ではリニア資産売却案が再燃する可能性があります。CEO・David Zaslavは「次期政権下では規制緩和により、企業合併への道が開けるはずで、メディア業界が必要とする変化だ。新政権は業界にポジティブな変化をもたらすだろう」と期待を覗かせます。

 

こう考えるのはZaslavだけではなく、業界の経営陣はいずれも、新政権下での法人税の減額、AI規制の緩和、独禁法に基づく合併規制の緩和などに期待をかけているとAdageも伝えています。

 

現在まさにトランプによる新政権人事が行われていますが、新政権が司法省(DOJ)や連邦取引委員会(FTC)など規制当局のトップをすげ替えることは確実です。現政権下では、FTC議長Lina Khanと、DOJの独禁法責任者Jonathan Kanterが、大型合併を厳しく審査し、阻止してきました。FTCのKhanの任期終了は2028年となっています。

 

とはいえ、第一期トランプ政権下では、DOJがAT&TとTime Warnerの合併阻止に2年間を費やした事実もあります。しかも、次期政権で副大統領となるJD Vanceが、独禁法厳守においてKhan支持者であることはよく知られています。Khanの任期満了後も、Vance次第では、特に大手IT企業の合併には厳しい審査が入ることは十分考えられるという見方もあります。

 

Axiosによると、トランプ新政権の影響がすぐに出そうな案件としては、現政権下で長らく燻っているゴルフのPGAツアーとサウジアラビア政府の公的投資ファンド(PIF)が支援するLIVツアーの統合計画です。トランプは常々、この統合が実現すれば、LIVツアーとPGAツアーとの緊張が緩和され、ゴルフ業界が安定すると話していました。トランプは選挙後すぐに、「Let’s Go」ポッドキャストに出演し「15分で統合を実現させる」と発言しています。

 

メディア各社もストリーミングへの移行を進めているとは言え、資金力の有無が今後の勝敗を分ける可能性があります。その意味でも小規模なメディアグループが主要なメディアグループもしくは大手ITの傘下に入るような大きな合併の波がトランプ政権下では起こるかもしれません。

 

(参考リンク)

https://www.axios.com/pro/media-deals/2024/11/07/media-merger-floodgates-open-under-trump

https://www.adweek.com/media/dealmaking-will-flow-in-2025-but-thats-not-all-down-to-trump/

WBD、Q3決算

WBDのQ3決算。Maxの加入者数がQ2末から720万人増えて全世界で1億1,050万人となり、四半期として過去最大の伸びを記録しました。リニアのディストリビュ[…]

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WBDのQ3決算。Maxの加入者数がQ2末から720万人増えて全世界で1億1,050万人となり、四半期として過去最大の伸びを記録しました。リニアのディストリビューションと広告の売上が落ち込む中、今年前半に海外市場展開を開始したMaxの成長が加速しています。

 

Jakub Porzycki | Nurphoto | Getty Images

 

Q3の全社売上は前年同期比4%減の$9.6B(1兆3,440億円)、最終損益は前年同期の$417M(583億8,000万円)の赤字から$135M(189億円)の黒字に回復しました。これには買収関連無形資産の償却費として$1.6B(2,240億円。税引前)、コンテンツ・フェアバリュー・ステップアップ(content fair value step-up)、リストラ費用が含まれます。調整後EBITDAは同18%減の$2.4B(3,360億円)でした。

 

テレビネットワーク部門は、ディストリビューションと広告売上がいずれも減少したにもかかわらず、売上が前年同期比3%増の$5.01B(7,014億円)、調整後EBITDAは12%減の$2.12B(2,968億円)でした。ディストリビューションの売上は、リニアの有料加入者数が9%減となったことで、8%減の$2.60B(3,640億円)。広告売上は、ネットワークオーディエンスが21%減となったことや米国のリニア広告市場の軟調が主に響いて、13%減の$1.49B(2,086億円)でした。

 

スタジオ部門は、売上が17%減の$2.68B(3,752億円)、調整後EBITDAは58%減の$308M(431億2,000万円)。昨年ヒットした「Barbie」ほど「Beetlejuice Beetlejuice」「Twisters」などの新作が振るわず、劇場興行収入は為替の影響を除いて40%減でした。

 

一方、ストリーミング事業を含むDTC部門は、売上が8%増の$2.63B(3,682億円)、調整後EBITDAは前年同期の$111M(155億4,000万ドル)から増えて$289M(404億6,000万円)でした。2024年前半にラテンアメリカと欧州でMaxをローンチしたことによる加入者数の15%増加と価格上昇により、ディストリビューション売上は6%増の$2.32B(3,248億円)。米国とカナダでad-lite加入者が増加し、広告売上は49%増の$205M(287億円)でした。ARPUは米国とカナダで$11.99(1,680円。前年同期は$11.29=1,580円)、海外市場で$4.05(570円。前年同期は$3.98=560円)となりました。

 

WBD CEOのDavid Zaslavは会見で、同社の資産は「現在過小評価されている」との見解を示し、積極的な経費削減とフリーキャッシュフローの転換を図るなどし、是正に取り組んでいると述べました。同社はすでに$16M(22億4,000万ドル)以上の負債を返済しており、Maxを世界的に展開してそのリーチと収益性を最大限に高めるなど、会社の価値を高める取り組みの特定と推進に注力するとしています。

 

今回の決算ではストリーミング事業の伸びが強調されましたが、テレビネットワーク部門と比較すると、売上はほぼ半分程度にまで成長していますが、EBITDAベースでは1/7程度となっており、まだまだ利益面では遠く及ばないという状況です。またMaxの場合は、売上のほとんどが加入料収入であり、広告の占める割合が極端に少ない点も競合他社との違いかと思います。

 

(参考リンク)

https://s201.q4cdn.com/336605034/files/doc_earnings/2024/q3/earnings-result/WBD-3Q24-Earnings-Release.pdf

https://www.cnbc.com/2024/11/07/warner-bros-discovery-wbd-earnings-q3-2024.html

https://www.adweek.com/convergent-tv/trump-positive-industry-consolidation-wbd-ceo/