CNNは予測市場大手Kalshiと独占契約を結び、政治・経済・文化などの予測データを自社の放送やデジタル配信、SNSで活用することを発表しました。Kalshiのリアルタイム予測データはAPIを通じてCNNに提供され、テレビ放送のデータティッカーや記者の分析に組み込まれる予定です。CNNのチーフデータアナリストHarry Enten氏は、今後Kalshiのデータを用いて、ニュースの「未来」を読み解く手法を強化していくといいます。この提携は、CNNがデータ利用料を支払わない代わりに、他の予測市場データ提供者とは提携できないという条件となっています。
2社の提携は、予測市場が急速に主流化している現状を象徴する動きだと、AxiosやBloombergなどが報じています。Bloombergによると、予測市場はここ数か月でウォール街とシリコンバレーの注目を一気に集め、巨大産業へと変貌しつつあります。11月、Yahoo FinanceはKalshiのライバル企業Polymarketとの統合を開始しているほか、雑誌Sports IllustratedとTimeも今年、予測市場企業Galacticと提携しています。
予測市場とは、選挙結果やスポーツの勝敗、気象・天候、エンタメなどさまざまな分野において、“未来の事象”の確率を金融商品のように売買できる仕組みです。支持者は「ギャンブルと金融の中間に位置する未来予測インフラ」と称賛し、反対派は「生活のあらゆる領域を賭博化する危険な仕組み」と批判します。賛否が分かれる一方で、この分野には巨額の資金が流れ込み始めているのも事実で、Kalshi、Polymarketともに急激に企業評価額を上げているとBloombergは指摘しています。Kalshiは今年すでに3度目の資金調達を行い、評価額は$11B（約1兆5,400億円）に達しました。両社とも、巨大IT企業、金融機関、ベンチャーキャピタル（VC）、さらにはプロスポーツリーグまでを巻き込み、提携獲得合戦を繰り広げています。
スポーツ界では、北米アイスホッケーリーグNHLがKalshiとPolymarketの両社と契約。UFC（Ultimate Fighting Championship）もPolymarketと連携し、中継画面にファン予測スコアボードを導入する計画です。先物取引所を運営する金融企業CME Groupも、スポーツベッティングのFlutter Entertainment（FanDuel親会社）と組み、消費者向けアプリ「FanDuel Predicts」を年内にリリース予定。従来の金融取引所やスポーツ賭博企業までが予測市場領域に参入し始めているということで、「スポーツ×取引」の融合が急速に進んでいます（2025年10月7日記事参照）。
この急成長を支えているのが、予測市場が米政府の“規制の空白地帯”となっている点です。トランプ政権下で規制の解釈が緩み、政治・スポーツの予測契約がCFTC（商品先物取引委員会）の監督下で扱えるようになったことが、各社の拡大を後押ししました。当然、批判の声も強まっています。識者や州規制当局は「ギャンブルの拡大による社会的影響」を警告し、ネバダ州の連邦判事はKalshiのスポーツ契約に懐疑的な見解を示しました。
政界からの“グレーゾーン的”関与も増えています。Donald Trump Jr.氏は、Kalshi、Polymarket双方のアドバイザーを務め、Trump Media & Technology GroupはCrypto.comと交渉し、独自の予測市場「Truth Predict」を開始しました。政治的な立場を背景に予測市場が利用される可能性について、懸念を示す専門家もいます。
それでも予測市場が急成長の波に乗っていることは確かです。KalshiのCEO・Tarek Mansour氏は「予測市場は最大級の資産クラスと競合する存在になる」と語り、ニュースメディアとの提携も拡大すると予告。その先陣を切ったのが、今回のCNNとの独占契約です。ニュースが「過去や現在を説明する」だけでなく、「未来の確率を提示する」方向に進むなら、予測市場はジャーナリズムの新しい基盤となる可能性があります。一方で、その社会的影響や規制のあり方については、引き続き慎重な議論が求められます。
（参考リンク）
https://www.axios.com/2025/12/02/cnn-kalshi-prediction-market-data?